だんだん暖かくなると、身も心も弾み、活動的になってきます。この時期にもいいことばかりではなく、頭を悩ますことがあります。その代表が、「花粉症」と「蚊」ではないでしょうか。花粉症に悩まされている人も多いようですが、今回は「蚊」を取り上げます。
蚊の種類
日本には、蚊は110種類以上いて、恐竜時代の100億年以上前から生き続けています。人間よりずっと先輩なのです。
その中で私達が直接目にする蚊は、おもに2種類です。1つは、家の中を飛び回り、時々人を刺す「アカイエカ」です。もう1種類は、おもに屋外で活動する種類です。登山やキャンプで出会うのが「ヒトスジシマカ」という種類です。こちらは黒い縞縞があり、英語では「タイガーモスキート」と呼びます。まさに虎で、「アカイエカ」より大きく、強強靱靱な生命力を持っています。
蚊の活動時期
蚊は、高温多湿を好みます。日本では、6月後半の梅雨の時期から、秋までの期間に活動します。最近は温暖化の影響で蚊の活動時期も長くなり、秋の後半になっても、まだいることもあるようです。
アカイエカは、夜がおもな活動時間帯です。殺虫剤のコマーシャルでも、昼間の大部分の時間は壁に止まって寝ているといわれていました。ヒトスジシマカの方は、一日中活動します。
蚊の発生場所と活動場所
蚊は、どこからやってくるのでしょうか。蚊は卵を水辺に産みます。日本に蚊が多いのは、かつての日本は水田地帯が広がっていたためです。どこでも水が貯められていました。しかし、もう都会はそうではないのに、どうして蚊はいなくならないのでしょうか。もちろん、川や湖や池があります。しかしそうしたもの以上に、捨てられた空き缶やペットボトル、うち捨てられた古タイヤやバケツなどの中に雨水がたまって、蚊の絶好の産卵場所になるのだそうです。
水中で羽化した蚊の卵は、幼虫となって水の中で過ごします。いわゆるボウフラです。ボウフラは細長い棒状棒状をしていて、時々「くの字」に曲がります。棒状のてっぺんがお尻で、そこから空気を吸います。下が口になっていて、そこから養分を吸収しているのです。このボウフラには、害はありません。
しかし、成長して成虫になると、人間を刺し、血を吸います。特にアカイエカは、家の中に入り込み、人の血を吸うので、迷惑なこと限りないのです。尤尤も蚊の飛翔能力は、それほどないので、高層階のビルなどには上れません。ですから、高層マンションでも校舎の4階でさえも蚊はほとんど見かけないはずなのです。ところが、そこでも蚊に刺されることがあります。これは、蚊が自分で飛ぶのではなく、人に止まったり、荷物にくっついたり、あるいはエレベーターの壁に止まって移動するのです。
一時、アフリカからの荷物に止まって日本に入り込んできた蚊が、デング熱を感染させるとして大問題になったことがありました。蚊は、国や地域を越え、高低も克服して活動場所を広げているのです。
人を刺す蚊について
蚊は人を刺しますが、実は人を刺すのは雌雌だけなのです。
蚊の雄と雌を見分けられますか。雄と雌の大きな違いは触角です。よほどよく見ないとわかりませんが、右の写真のように、雄の触角は毛がふさふさしていて、雌の触角はほとんど毛が生えていません。
蚊が飛んでくると、独特な羽音がすることがあります。人間にとっては嫌な音です。あの羽音は雄も雌も出します。雌の出す羽音に雄が群がってきて交尾をするのです。この時に蚊は、羽を1秒間に600回から800回動かすそうです。相当な努力ですが、それでもその雄と交尾をするかどうかは雌が主導権を握っていて、近づいてきた雄に向けて、一層高い羽音を出します。その羽音に呼応した雄の出す音を雌が気に入らなければ、雌はその雄を足で蹴って遠ざけるそうです。なお、蚊の雌が雄を蹴って遠ざける時に、どちらの足を使うかを研究した人がいて、ほとんどの雌の蚊は右足で蹴るのだそうで、蚊も右利きが多いそうです。
さらに、雌の蚊もいつも人の血を吸うわけではありません。人を刺すのは、卵を産むために栄養が必要な時です。つまり雌の蚊は、種族の繁栄をかけて、命がけで人に立ち向かってくるのです。では、そのとき雄は、どうしているか。実は、危険な人間には近寄らず、花の蜜を吸っています。「君子危うきに近寄らず」といったところですが、それと比べると、危険を冒冒して人間の血を吸いに来る雌の蚊は、人間にとっては迷惑な存在には違いないのですが、反面健健気気にも思えてこないでしょうか。(普段は雌も花の蜜を吸っています。)
蚊の刺し方
蚊に刺されると痒痒くてたまりません。しかし、刺されても痛みは感じないのです。
蚊は、痛みを感じさせない刺し方をした上で、麻酔も施すのです。蚊は7本の針をもっていて、そのうちの2本で穴を開けます。次にほかの2本で血を吸います。最初に人間の皮膚に穴を開ける時、1秒 間に30回ほどの振動を与えて、ノコギリのように徐々に穴を深く掘っていきます。この方法が痛みを極限まで減らすために、人間の注射器にも応用され、無痛注射器が生み出されました。
穴を明けたら、蚊は自分の唾液を人に注入し、その反動で血を吸うという、ポンプのような作業を繰り返します。この蚊の唾液に、麻酔と同じような痛みを感じさせない成分が含まれています。いわば麻酔薬です。痛みを感じさせないのはいいのですが、この唾液にはアレルギー反応を起こさせる成分も含まれており、これが痒痒みを感じさせるのです。さらに痒みだけではなく、この唾液に病原菌が入っている可能性があり、デング熱やマラリヤなどといった恐ろしい病気を感染させることもあるのです。
蚊の好物
では、蚊がが好むものはどんな物でしょうか。蚊が好むのは、
(1)二酸化炭素
(2)高い温度
(3)水分
の3つです。人間が二酸化炭素をたくさん出すのは、主に運動して呼吸が荒くなった時や飲酒して呼吸が速くなったときです。皮膚の温度が高くなるのも、運動の後や病気で発熱したときなどです。そして暑くなると汗をかきます。汗をかいた時やもともと汗をかきやすい人に蚊はたくさん寄ってくるのです。
人間の血液型には、蚊の好みがあります。蚊が1番好む血液型はO型です。次にB型、その次がAB型で、最も好まれないのがA型です。また、蚊には色の好みもあります。1番好む色は、黒、以下青、赤、黄色、白という順でした。着る物の色はもちろん、肌の色も関係するということです。日焼けも蚊を呼びます。
さらに、人間の体のどの部分を好むのかもわかっています。1番好む部位は足首で、次が手、そして顔という順番だということです。
さて、蚊に刺されてしまった時に痒みを出来るだけ抑える方法はないでしょうか。刺されたら、出来るだけ早くぬれタオルや冷水を患部に当てて、患部を冷やすことで痒みは抑えられます。それでも痒みが強い時や、患部に赤みや腫れがある時には、炎症が起きているので、患部を洗って清潔にして、、ステロイド外用剤を塗って治療をします。
またひとつまみの塩で、刺された場所をよくもむことでも痒み成分が中和されるといいます。お酢の殺菌効果も痒みを抑える効果があるといわれています。巣の原液か少し水で希釈した門簿を、指された箇所に塗ります。痒みが治まったら、水で洗い流します。
蚊に刺されない工夫、遠ざける方法、殺し方
こうした蚊の性質から、なるべく蚊に刺されないための対策ができます。
① 長袖、長ズボン、手袋、ネット付き帽子、首には手ぬぐいを巻くなどできる限り 肌を隠す方法を工夫するのが第一です。蚊が血を吸うのは子を産むためとは言え、 そう簡単に血を吸わせるわけにはいきません。しかし、簡単に殺してしまうのも気 が引けます。夜寝るときは、蚊帳の外に片足を出して、蚊にも血を分けてやったの は、良寛和尚でした。生きとし生けるものの命は皆同じとしたのです。それをまね ることはできませんが、蚊を殺す前に、簡単には血を吸われない工夫をしましょう。 とは言え、蚊は暑い時期に活動するので、肌を露出しないのは、かなか難しいこと ですが。
② 水たまりを、できるだけなくすのも対策の一つです。川や池はなくせません。な くすのは不要な水たまりです。投げ捨てられた空き缶や空き瓶、出しっ放しになったバケツなどは、で きるだけ片付けましょう。これで蚊を全滅させられはしませんが、最小限の発生に抑えられそうです。 ③ 蚊を自分の傍傍から遠ざける方法として、除除虫虫菊菊やハーブなどの蚊が嫌う植物を植えることや、それ らを用いたいわゆる蚊取線香をたく方法があります。蚊が嫌がって近づかなくなります。室内に入り込 まないように玄関などに吊り下げる薬剤も販売されています。さらに電池式の物や、山野を歩き回る人 々が昔から蚊取り線香の代わりに用いていた「森林香」と呼ばれる強力な蚊取線香も、ハーブ素材の忌 避剤も売られています。
※ 蚊取線香の発売元の一つに「キンチョウ」がありますが、その会社の正式名は、「大日本除虫菊株式会社」です。
④ 直接肌に塗って、蚊を寄せ付けないスプレー剤や痒痒み止めの塗布剤があります。「ムヒ」などがその代 表的な製品です。もともと「デード」が主成分として使われてきましたが、神経毒の作用が認められ、 使用には年齢制限が設けられました。その代替品としてより安全性の高い「イカリジン」が主成分とさ れる薬剤が発売され、これは赤ん坊にも使えるほど安全性が高いものです。
⑤ 最後にあるのは、蚊を殺す薬剤です。さまざまな効力を持つものが販売されています。例え無闇無闇に 殺してしまうことは気が引けても、長い時間蚊がたくさんいる所で過ごすような場合には、殺すのもや むを得ないでしょう。ただし、蚊が生まれた理由はないのではなく、人間にはわからないだけです。
執筆日 2023年6月5日(月) (June5th・卯月17日)