いつも「コミュニケーションだより」を読んでくださって、ありがとうございます。丁寧丁寧に読んでくださっている方の中には、訳訳の分からないことが書かれていると思ってはいないでしょうか。この「たより」の上の欄外欄外には、左側に発行予定日が書かれています。それはまあいいとして、その右隣右隣の括弧括弧の中に、英語の日付と共に、変なことが書かれていることに気づいたのではないでしょうか。
※ 「本誌」はもともと「コミュニケーションだより」として、紙に印刷して配っていました。その名 残で、上に表題があり、その枠の上(外)に、発行日が記されていました。その左側には、発行予 定日が記されていたのですが、右側に時期外れの日時が記されていたのです。この末尾にそれが 写してあります。
よく知っている人は、これが旧暦旧暦だと気づいたかも知れません。しかし、もっとよく知っている人は、それでもおかしいと思ったのではないでしょうか。4月なのに、閏如月閏如月とか弥生弥生とか書かれていました。如月は2月で、弥生は3月、4月なら卯月卯月ではないでしょうか。その通りです。ですから、間違っているのではないかと思って当然です。ところがそうではないのです。その辺のことを説明します。
旧暦の月の呼び名
旧暦の月の呼び名は、1月が「睦月睦月」、2月が「如月如月」、3月が「弥生弥生」、4月が「卯月卯月」、5月が「皐皐月」、6月が「水無月水無月」、7月が「文月文月」、8月が「葉月葉月」、9月が「長月長月」、10月が「水無月水無月」、11月が「霜月霜月」、12月が「師走師走」です。
それぞれにいわれがあり、複数の説があるものもありますが、次のようなものが代表的です。
「睦月」:正月に親類一同が集まって睦睦び(親しくす)る月。
「如月」:「衣更着衣更着」とも言い、まだ寒さが残っていて、衣を重ねる(更に着る)月。
「弥生」:木草弥生い茂る(きくさや、おいしげる)月。
「卯月」:卯卯の花の月。
「皐月」:「早月」とも言い、早苗を植える月。
「水無月」:田に水を引く月。「無」は「の」の意味で、水の月です。
「文月」:稲稲の穂穂が実る月。
「葉月」:木々の葉落ち月。
「長月」:夜長月。
「水無月」:神の月。「無」は「の」の意味。しかし、全国の神々が出雲大社出雲大社に集まり、各地の神々が留留
守守になるという説もある。
「霜月」:霜の降降る月。
「師走」:師匠師匠といえども趨走趨走(走り回る)する月。
ということになります。だとすると、やはり4月は「卯月」の筈ですが、第1号の4月10日が「閏如月9日」、第2号の4月17日が「閏如月27日」、第3号の4月28日は、「弥生9日」とあって、一見めちゃくちゃです。4月のうちに月の名まで変わっています。しかし、これでまちがいはないのです。これは昔の暦の仕組みと関わってくるのです。
旧暦の仕組み
少し話は複雑になります。じっくり確かめながら、ゆっくり読み進んでください。
昔の暦では、一月の長さを月の満満ち欠欠けで決めていました。つまり、毎月15日が満月(十五夜です)になるように決めたのです。こうすると一月の長さは、約29.5日となります。だから一年(12 ヶ 月)間 の長さは、約364.3日です。現在の太陽の動きを基準にした暦では、一年間は約365.6日です。(毎年0.6日ずつ不足するので、4年に一度、2月を閏月として、1日増やして調節しています。)
旧暦の場合は、1年間に約11日不足します(365.6-364.3)から、3年で約一月分足りなくなってしまいます。そこで、3年に一回、閏月閏月として一月加えるのです。その年は1年が13ヶ月になります。加えられた1ヶ月は、閏月として同じ月を繰り返します。何月に閏月をおくかは、複雑な計算をして決めます。簡単に言うと、太陽の日差しが季節を生み出しますから、ずれてしまった一月分を調整できるような時期に一月を加えます。2023年の場合は、閏年に当たり、閏月は2月だったために、本来の2月(如月)の後に、もう一ヶ月2月の如月をおいて、その月を閏如月としたのです。
今年の進級暦の比較を示すと、次のようになっています。
新暦 2023年1月1日(元日) 1月21日 1月22日 1月31日 2月1日 2月28日 3月1日 3月21日 3月22日 3月31日 4月20日 4月22日 6月22日 8月22日 8月30日 10月23日 12月31日(大晦日) 2024年2月9日 2月10日 | 旧暦 12月(師走)10日 12月(師走)30日(晦日)→大晦日 1月(睦月)1日(朔日)→元日 1月(睦月)10日 1月11日 2月(如月)1日(朔日) 2月(如月)10日 2月(如月)30日 閏2月(如月)1日(朔日) 閏2月(如月)10日 3月(弥生)1日 3月(弥生)3日(ひな祭り) 5月(皐月)5日(端午の節句) 7月(文月)7日(七夕) 7月(文月)15日(彼岸の中日) 9月(長月)9日(重陽の節句) 11月(霜月)19日 12月(師走)31日(晦日)→大晦日 1月(睦月)1日(朔日)→元日 |
だいぶ日にちはずれて、季節感も違っています。しかし昔「ひな祭り」をやっていたのは、今の4月20日過ぎであったこと、「端午の節句」は6月20日過ぎであったこと、「七夕」は8月の20日過ぎであったことを、その時期になったら思い起こしてください。現在の暦通りだと少し時期がふさわしくないのではないかと思っていた行事が、本当はこの時期に行われていたとすると納得がいくことが、きっとあると思います。
その他の呼び名
ついでに、その他月日に関わる呼び名を紹介しておきます。
(1) 「元旦」と「元日」
「元旦」も「元日」もどちらも1月1日を表すことは同じです。 ただ、「元日」は1月1日の一日 中を表すのに対して、「元旦」 は1月1日の朝、あるいは午前中を指しています。「元旦の午後に なったら・・・」という言い方はしません。「旦」という字は、太陽 が地平線から昇ってくることを表した文字です 。
(2) 「晦日」と「大晦日」
「晦日」は、毎月の最後の日を表します。現在の暦では2月以外は30日か31日ということになりま す。だから、「晦日」は毎年12回(旧暦の閏年なら13回)あります。これに対して「大晦日」は、その 年の最後の日のことを指しますから、年に一度しかありません。
(3) 月の初めの日の呼び名
月末の日の呼び方があるなら、月初めの日の呼び名はないのでしょうか。月初めの日は「朔日朔日」といいます。月初めという意味の「月立ち」がなまったものといわれています。「朔」の文字の偏偏の部分は「人」が逆立ちした様子を描いており、旁旁の「月」の部分は欠けた月を表していたといいます。つまり、だんだん欠けて細くなった月が、反転してだんだん満ちていく日という意味だといいます。ちょうど、「晦日」と「大晦日」の関係に対応するのが、「朔日」と「元日」(「元旦」)だと言えそうです。
執筆日 2023年5月(皐月)15日(月) (May15th・弥生26日)