「土用の丑の日というのは鰻を食べて活力を付ける日」というのが今日では常識のように語られて、古くからの日本の食習慣であったかのように言われています。
しかし、鰻の旬は本来は秋から冬にかけてです。夏場の暑い差からに、もうもうと煙を上げる鰻の蒲焼きなどうんざりする食べ物です。実際江戸時代までは、夏に鰻を食べようとするものなどいなかったはずです。それがまるで暑い時期だからこそ脂ののった鰻を食べて活力を取り戻そうなどと言うのは、常識的ではありません。
確かに暑い時期に冷たい者ばかり飲み食いしていると体調が悪くなりかねません。暑い日に、向かい酒ではありませんが熱いものを食べて、びっしょり汗まみれになるのもすがすがしいともいわれます。生かしそれはあくまでも対処療法で、一時的なものに過ぎません。暑い時期だからこそ熱々の蒲焼きを食べようなどとは、普通は思わないはずです。もし暑い時期に暑くても栄養満点名ものが体のためにいいというのなら、焼き肉も、ステーキも、バーベキュウも良さそうです。土用の丑の日に鰻をと言うのなら、この夏最高気温を記録した日にこそバーベキューをと、どうしてならないのでしょうか。
土用の丑の日に鰻を食べる習慣は、江戸時代の蘭学者であり、発明家であり、戯作者であり、コピーライターでもあった、極めて多才な平賀源内が広めたと言われています。当時、夏場は鰻が全然売れない時期でした。当然です。真冬にかき氷が売れないのと同じことといってもいいでしょう。知り合いの鰻屋から夏場に鰻を売り出す相談を受けた平賀源内は、「本日、土用の丑の日」と書いた看板を出すことを提案しました。「土用の丑の日には鰻を食べよう」というのです。もともと土用の丑の日には「う」のつくものを食べると夏負けしないという言い伝えがあり、梅干しや瓜などが食べられていました。確かに梅干しや瓜などは、暑い時期に低下しがちな食欲をそそる効果はありそうです。しかし、鰻は暑い時期に好んで食べようとする人はほとんどいないはずです。食欲をそそるとは言えません。そもそも一般的に鰻の旬は秋から冬にかけてで、夏場は味が落ちると言われています。食欲をそそるわけではない上に、おいしい時期とも言えないのです。この時期に食べることを進めるには最悪の条件が重なっています。 ところが、これがきっかけで、その鰻屋は大繁盛してしまうのです。夏バテ防止や食欲増進の効果が宣伝されたのでしょうか。発明家として名高い平賀先生の言うことなので信じる人が多かったのでしょうか。それともへそ曲がりの多い江戸っ子が、勝手に旬でもないが脂ぎった鰻を食べたいとは思わない時期に無理して食べるところに意気を感じ、健康増進の効果を勝手に決め込んでしまったのでしょうか、理由はよくわかりませんが、それまでとは違って売れに売れてしまったのです。そのため、訳もわからず他の店も追従したことから、いつの間にか「土用の丑の日に鰻を食べる習慣」が定着してしまったのです。
なお、土用というのは、各季節の変わり目の約18日間を指し、その期間の丑の日を土用の丑の日と言います。本来は年に四回あるのですが、鰻が最も売れにくかった夏場の土用の丑の日こそが、鰻を食べて精力増進を図る日だと受け止められたのです。
平賀源内が夏に売れない鰻屋を助けるために考え出したアイデアが始まりです。彼の提案が功を奏し、鰻屋は大繁盛、それが広まって、現在まで続く夏の風物詩となりました。いかに発明家の平賀先生と雖も、まさかこれほどに売れない鰻を売る切り札になろうとは思ってもいなかったのではないでしょうか。もしかしたらほんの冗談か軽口程度に言い出したことがまことしやかに広まってしまい、本人が一番驚いたかもしれません。「夏場の鰻がうまい?」「夏こそ脂ののった鰻が夏バテ防止や滋養強壮に良いだって?」「そんなこと、俺は言っていないぜ」と草葉の陰でうそぶいているのではないでしょうか?
さて、鰻と言えば「蒲焼き」です。鰻の蒲焼きは、開いた鰻に串を打ち、白焼きにした後、甘辛いタレを塗って焼いた料理です。関東風と関西風で調理法に違いがあり、関東では背開きで蒸してから焼くのに対し、関西では腹開きで蒸さずに焼くのが特徴です。たいていの魚は原からおろすのが普通です。ところが関東では原から作のは嫌われました。これは、関東では武士の影響力が強く、腹を割くのは切腹を連想されることから、嫌われたと言われています。
なお関東風と関西風の違いは咲き方だけではありません。関東風が背開きにした鰻を白焼きにした後、蒸してからタレをつけて焼苦のに対して、関西風では、腹開きにした鰻を素焼きにし、タレをつけて焼きます。蒸しの工程はありません。これは、関東風の方が手間がかかり工程が多い文時間がかかるように思われます。気の短い江戸っ子が、寿司などを流行らせたのは、ファーストフードだったからと言われています。気の短い江戸っ子が、鰻に限って手間をかけているように見えますが、実は蒸すことによって焼く時間がずっと短縮されるのだそうです。忌に短い江戸っ子向きなのは、蒸すという校庭を入れた蒲焼きだったのです。
焼き上がった蒲焼きの特徴は、関東風は蒸すことでふっくらとした食感に、関西風は直火焼きで香ばしく仕上がります。
鰻の蒲焼きは、江戸時代に醤油の普及とともに広まりました。みりん、砂糖、酒などを混ぜて絶妙の味が生み出されたのです。最初は酒の肴として提供され、その後ご飯と一緒に食べるスタイルが定着しました。
ところで、鰻を開いて串に刺して焼いたものを「蒲焼き」というのはなぜなのでしょうか。この名前の由来は、いくつかありますが、最も有力なのは、鰻をぶつ切りにして串に刺し、焼いた姿が、植物の「蒲(がま)」の穂に似ていることから「蒲焼き」と呼ばれるようになったという説です。
昔は鰻を開いて串に刺して焼くのではなく、ぶつ切りにして串に刺して焼くのが一般的でした。この串に刺した鰻の姿が、水辺に生える植物「蒲(がま)」の穂に似ていることから、「がま焼き」と呼ばれ、それが変化して「蒲焼き」になったという説です。
因みにほかには、鰻を焼いた時の色や形が、樺の木の皮に似ていることから「樺焼き」と呼ばれ、それが変化したという説、鰻を焼く時の香りが早く鼻に届くことから、「香疾(かばや)焼」と呼ばれ、それが変化したという説、蒲鉾のように焼いたことから「蒲鉾焼」と呼ばれ、それが変化したという説があります。香りが早く届く(香り速し)とか、「蒲鉾焼き」からの変化には多少無理やこじつけが感じられます。やはり「蒲の穂」からの命名というのが一番自然に思えます。
なお、うなぎの蒲焼きが文献に初めて登場したのは、1399(応永6)年の「鈴鹿家記」という書物だそうです。室町時代には、既に鰻をぶつ切りにして串に刺して焼く調理法があったということです。江戸時代になると、現在の形に近い、鰻を開いて焼く調理法が広まったということです。ここからも、「蒲焼き」は、蒲の穂に似ているという説が一番それらしく思えます。
では、おいしい鰻はどうやって見分けたら良いのでしょうか。スーパーなどで鰻を購入するにあたってどんな点に気をつけたらいいのかということです。魚に限らず肉や野菜・果物でも、おいしくて新鮮なものを選ぶ秘訣などが紹介されることがあります。しかし、実際にはこういうものがいいといわれても、そうでないものを同時に買って食べ比べてみるということはまずしませんから、それが正しいかどうかは、たいていの場合わからないままです。きっとうまいのだろうと信じる以外にないのが現実です。それでは本当は意味がありませんが、わざわざおいしくないと云われている物を買って確かめるような余裕はありません。
それでも一般的に言われていることをまとめると、次のようになります。おいしい鰻を見分けるには、まず「身の幅が広く、平らなもの」を選ぶことが重要です。また、皮の色や艶、香ばしい香り、そして原産地表示も確認すると良いといわれています。
まず、細長いものよりも、幅が広く平らなものの方が、身がふっくらとしていて柔らかい傾向があ流といわれます。
次には、鰻の皮の色と艶です。良質な鰻は、皮の色が均一で黒褐色、そのうえ艶やかなものが多いそうです。テカテカしすぎたり、色ムラがあるものは避けた方が良いということです。出来ることなら、パックを手に取ったときの香りも確かめましょう。香ばしい炭火の香りがするものがおすすめだそうです。
あとは、原産地表示です。国産の表示があるか確認し、可能であれば、産地が明確なものを選ぶと安心です。
こうした一般的な目の付け所に対して、鰻職人のプロに、忌憚なく語ってもらうと次のようになります。つまり、本物の国産うなぎを見分けるプロならではの視点です。
まず簡単なところでは「価格」に注目すべきだといいます。国産うなぎの仕入れ価格は高騰しており、
一尾あたり3,000円以下で販売される「国産」表示には疑問を持つべきだそうです。特に、1,500円前後の価格帯は、ほぼ確実に外国産の可能性が高いとされています。
次に「見た目」による判断法です。本物の国産うなぎは、腹が白く、背中は黒褐色で艶があります。外国産に比べて脂が適度にのっているため、焼いた際の香ばしさも格別だといいます。そう言われても、鰻をそれほど見比べた経験がない素人には、色つやの見た目なども判断は困難だというのが正直のところです。とすると、値段こそが唯一の判断基準となりそうです。せめて「身の厚み」をチェックするのは忘れないようにしましょう。たいていはパックされていますから、側面から見て、できるだけ身が厚く、ふっくらとしているものを選ぶのがいいようです。
また「産地表示」のチェックも重要だといいます。特に「国内加工」という表記は要注意で、これは外国産うなぎを日本国内で調理したことを意味します。必ず「国産」または「日本産」と明記されているか確認しましょう。
最後に忘れてはならないのが「信頼できる店舗選び」です。長年の実績がある専門店や、トレーサビリティ(生産履歴)を公開しているスーパーであれば、偽装のリスクは低くなります。「信頼」と言えばかっこいいですが、他人任せ、人頼みの感は拭えません。しかし専門家でなければそれも致し方ないと言うべきでしょう。そのためのブランドでしょう。老舗百貨店の食品売り場や、JAS有機認証を受けた養殖場から直接仕入れている店舗が安心だということになります。
実はもともとうなぎの旬は秋〜冬なのですが、土用の丑の日に向けて育成を早めているというのが今の実情だそうです。すると何が問題かというと、5〜7月に出荷される活きているうなぎの品質は、実は結構ばらつきがあり、プロでも仕込みの焼き具合や蒸し時間に個体差があるので、調理にはかなり神経を使うのだそうです。
特に土用の丑の日前後は品質のばらつきが大きくなりがちですので、せめてできる限りこの見極め方を参考に、注意深く鰻選びをしましょう。
こう言ってしまうと信頼出来る老舗から、高価な鰻を買うしかないかのようになってしまいます。それでなくても国産うなぎは高級というイメージがあります。高額でも食べて満足出来るおいしさにありつけたら、とりあえずは満足ですが、実は値段が高いからといって必ずしも美味しいとは限らないのです。世の中には悪い奴も少なくないのです。しかし、逆に言えば、比較的リーズナブルな価格でも極上の国産うなぎに出会える可能性もあるのです。
そうした貴重なチャンスは次のようにして巡り会う可能性があるそうです。まず押さえておきたいのが「時期」です。土用の丑の日前後は需要が高まり価格が上昇しますが、それ以外の季節は相対的に値段が下がります。もともと鰻の旬の季節は、秋から冬にかけてでした。この時期を狙えば、品質のよいうなぎをより安く購入できることも可能です。
次に注目すべきは「販売形態」です。大型スーパーやデパートでは、週末限定の特売や閉店間際のタイムセールで、良質な国産うなぎが驚くほど安くなることがあるそうです。特に閉店1〜2時間前に精肉・鮮魚コーナーをチェックする習慣をつけると、掘り出し物に出会える確率がグッと上がるということです。
さらに、意外と見落としがちなのが「大きさと価格のバランス」だそうです。特大サイズは家庭では見栄えが良く人気ですが、中サイズの方が脂のノリと身の締まりのバランスが取れていることも多いのです。
価格も抑えめなので、コストパフォーマンスに優れた選択肢になります。
最後に、うなぎを扱う店舗との「関係構築」も重要だといいます。いつも同じ魚屋やスーパーの鮮魚コーナーで購入し、店員さんと会話を重ねることで、「今日入った国産うなぎは特においしいですよ」といった貴重な情報を教えてもらえるようになるということです。これは当然のことです。かつては近所の魚屋さんや八百屋さんで買い物するのが当たり前だったのですが、最近は大量仕入れ、大量販売が当たり前になり、売り手と買い手の人間関係などが作り上げられずに、値段の高い安井のみが唯一の繋がりになってしまっています。これでは売り手も買い手も、互いに大切にしあおうとはしなくなります。する必要がないからです。鰻に限らないことですが、そうした人間関係を築いていくことが忘れ去られることなく大切にすることが、おいしい食材を手に入れることにとって大切だということが、普段はないがしろにされているようです。そこから考え直す必要がありそうです。
自宅でおいしい鰻にありつく以外に、店に鰻重や鰻丼を食べに行くと云うことがあります。
その際に、特に鰻重には、「松」「竹」「梅」などといった違いがあり、値段がかなり違っていることがあります。まるで「特上」「上」「並」といった具合に、提供される鰻の質が違っているかのように感じられます。ところがそうではないのです。「松竹梅」の違いは、鰻の量の差なのです。値段の淳に鰻の量が多いのです。たいていは、松が一番多く、梅が一番少ないのが一般的です。価格も松が高く、梅が安い設定になってい流のが普通です。鰻の品質や調理方法は全く同じであるのが普通だそうです。
因みにご飯の量は、松竹梅で変わらないことがほとんどです。
全部の鰻店がそう決まられているというわけではありませんから、一部の高級店では、鰻の品質や部位(例えば、特上うなぎを使用するなど)に差をつけて、松竹梅を分けている場合もないとは言えません。しかし、うな重の松竹梅の価格差は、鰻の量で区別されていることが多いと考えて良いはずです。そんなわけですから、有名専門店の中には、店主自ら、「うちでは『竹』が一番お得だ」と公言してはばからないところもあるほどです。
また、鰻丼と鰻重の違いも、器が違うだけということがほとんどのようです。